ゴミ屋敷化の背景にある深刻な心理状態として、「セルフネグレクト」が挙げられます。セルフネグレクトとは、自身の健康や安全、衛生状態を維持するための行為(食事、入浴、着替え、服薬、住居の清掃など)を怠り、自己管理能力が著しく低下した状態を指します。特に高齢者に見られることが多いですが、若い世代でも発症することがあります。セルフネグレクトの結果として、部屋がゴミや不用品で溢れかえり、ゴミ屋敷化が進むことがあります。これは単に「片付けができない」という問題ではなく、自己への関心や生活への意欲が極端に低下している状態なのです。セルフネグレクトに陥る心理的な原因は複雑です。最も一般的なのは、精神的な疲労やストレス、あるいはうつ病などの精神疾患です。気分の落ち込み、無気力感、絶望感などが続くと、身の回りのことに関心を払う余裕がなくなり、何もかもがおっくうになります。片付けや掃除といった活動を行うためのエネルギーが枯渇し、物理的に体を動かすことすら困難に感じられます。また、過去のトラウマや喪失体験(身近な人の死、失業など)が引き金となることもあります。こうした辛い経験から立ち直れず、現実逃避として自己管理を放棄してしまうことがあります。社会的な孤立もセルフネグレクトの大きな要因です。家族や友人との関係が希薄になり、誰とも交流がない生活を送っていると、自分の部屋がどんな状態であっても誰も気にしない、誰も助けてくれないという諦めや無関心が生じやすくなります。また、誰かに助けを求めることへの遠慮や、自分の状況を知られることへの恥ずかしさから、問題を隠そうとしてさらに孤立を深めてしまう悪循環に陥ることもあります。経済的な困窮もセルフネグレクトを悪化させます。片付けに必要な道具やゴミ袋を購入できなかったり、専門業者に依頼する費用がなかったりすることで、状況を改善するための行動を起こせなくなります。セルフネグレクトによるゴミ屋敷化は、健康被害(栄養失調、感染症、転倒など)や火災、近隣トラブルといった深刻な問題を引き起こします。この状態にある本人は、自身の状況を正しく認識できていない、あるいは改善する意欲を失っていることが多いため、周囲の働きかけが非常に重要です。